透析中に血圧が下がるとどうなる?症状・原因・予防策
透析中に急にあくびが出る、気分が悪い、冷汗が出る、足がつる。このような変化があっても、「透析中は疲れるものだから」「もう少しで終わるから」と我慢してしまう方がいます。しかし、これらは透析中に血圧が下がり始めたときのサインである場合があります。
透析中の体調変化は、軽いうちにスタッフへ伝えることが大切です。血圧の数字がまだ大きく下がっていなくても、吐き気、ふらつき、胸の違和感などがあれば、状態を確認して除水や透析条件を調整する必要があるかもしれません。反対に、普段より低い血圧でも症状がなく安定している方もいるため、数値だけで危険度を決めることはできません。
この記事では、透析中に血圧が下がると体に何が起こるのか、すぐ伝えるべき症状、主な原因、透析室で行われる対応、繰り返す低血圧を減らすための確認点を解説します。透析終了後や帰宅後の低血圧と救急サインは、【リンク候補:DJ20「透析後の血圧低下は危険?原因・予防・救急サイン」】で詳しく扱います。
透析中に血圧が下がるとどうなる?
脳や心臓などへ届く血流が一時的に減ります
血圧は、心臓から送り出された血液を全身へ届けるための力です。透析中に血圧が下がると、脳、心臓、消化管、筋肉などへ届く血流が一時的に不足し、あくび、めまい、吐き気、冷汗、腹部不快感、足のつりなどが現れることがあります。
軽い症状から始まることもあれば、短時間で意識が遠のくこともあります。体調変化の出方は患者さんごと、透析日ごとに異なるため、「上の血圧が何mmHgなら必ず危険」という一律の線引きはできません。
血圧の数字だけでなく、症状と普段との差を確認します
KDIGOの会議報告では、症状を伴う血圧低下、または透析中の収縮期血圧が90mmHg未満になることは、血圧・体液管理を再評価するきっかけとされています。確認する項目は、除水速度、透析時間、透析間の体重増加、ドライウェイト(目標体重)、降圧薬などです。
90mmHgという数字は、すべての患者さんに共通する「救急の境界」ではありません。普段の血圧、症状、脈拍、心臓病などの持病、回復までの時間を合わせて医療者が判断します。胸痛、強い息苦しさ、意識障害などがあれば、血圧の数字にかかわらず直ちにスタッフへ伝えてください。
繰り返す低血圧を「いつものこと」で終わらせないことが大切です
透析中の低血圧は、十分な透析時間を確保しにくくなることや、バスキュラーアクセス血栓、入院などとの関連が報告されています。ただし、一度血圧が下がったから重大な結果になるという意味ではありません。
毎回のように除水を止める、補液が必要になる、透析後の回復に長くかかる場合は、原因を整理して透析処方や体液管理を見直します。「いつものこと」と我慢せず、起きた時間と症状を記録して共有することが重要です。
血圧低下で現れやすい症状
あくび・眠気・冷汗・顔色不良
透析中に繰り返しあくびが出る、急に眠くなる、冷汗が出る、顔色が悪いと周囲から言われる場合は、血圧低下の初期変化であることがあります。単なる眠気と区別しにくいため、「いつもより急に眠い」「冷汗もある」と具体的に伝えてください。
吐き気・腹部不快感・頭痛
血圧が下がると、吐き気、嘔吐、腹部の不快感、頭痛が出ることがあります。透析中の吐き気には血圧以外の原因もあるため、我慢して食べ物や飲み物で対処せず、症状が始まった時刻をスタッフへ伝えます。
足のつり・脱力・めまい
除水に伴う体液変化では、足のつり、力が入らない、めまい、目の前が暗くなるなどの症状がみられます。足のつりは低血圧だけでなく、筋肉疲労や電解質など複数の要因が関係します。詳しくは、【リンク候補:DJ22「透析中・透析後に足がつる原因」】をご覧ください。
針が入っている状態で急に体を起こしたり、ベッドから降りたりすると、転倒や抜針につながるおそれがあります。体勢を変える前にスタッフを呼びましょう。
胸痛・強い息苦しさ・意識障害は直ちに伝えます
胸の痛みや圧迫感、強い息苦しさ、反応が鈍い、意識を失う、けいれん、ろれつが回らない、片側の手足が動かしにくいといった症状は、低血圧だけでなく心臓・脳などの緊急疾患を含めて評価する必要があります。
透析室にいる場合は直ちにスタッフへ知らせます。付き添いの方が異変に気づいた場合も、本人の返事を待ち続けずスタッフを呼んでください。
透析中に血圧が下がる主な原因
除水に血管内への水分移動が追いつかない
血液透析では、体にたまった余分な水分を除水します。血管内から水分を除く速度に、組織から血管内へ水分が戻る速度が追いつかないと、循環する血液量が減って血圧が下がります。
血圧低下は除水量だけで決まるものではありません。除水速度、透析時間、体格、血管の反応、心臓の働きなどが関係します。患者さんは透析装置を自分で操作せず、「開始から何時間後に、どのような症状が出たか」「最近の体重や食事量に変化があるか」をスタッフへ伝えてください。
透析間の体重増加が大きい
透析と透析の間に体重が大きく増えると、次の透析で除く水分量が多くなります。同じ透析時間で多くの水分を除く必要があると、血圧低下や足のつりが起きやすくなる場合があります。
ただし、飲水や食事を自己判断で極端に減らすことも、脱水や低栄養につながります。【リンク候補:DJ23「透析間の体重増加は何%まで?」】を参考にしながら、患者さんごとに透析施設から示された目標を優先してください。
ドライウェイトが現在の状態に合っていない
ドライウェイトが低すぎると、必要な水分まで除かれて血圧が下がりやすくなる場合があります。一方、低血圧を避けるためにドライウェイトを安易に上げると、水分過多、むくみ、高血圧、心不全につながる可能性があります。
食欲低下、筋肉量の変化、発熱、下痢、入院後などでは、適切な目標が変わることがあります。【リンク候補:DJ19「ドライウェイト(目標体重)とは?」】も確認し、自己判断では変更しないでください。
心臓や血管の反応が追いつかない
血管内の水分が減ったとき、通常は心拍数や血管の収縮によって血圧を保とうとします。しかし、心機能の低下、不整脈、弁膜症、虚血性心疾患、動脈硬化などがあると、必要な反応が追いつかないことがあります。
糖尿病などによる自律神経障害がある方では、血管収縮や脈拍の反応が弱く、症状を感じにくい場合もあります。動悸、胸痛、息切れ、失神があるときは、単なる除水の影響と決めつけず評価します。
食事・室温・姿勢が影響することがあります
食後は消化管へ血液が集まり、血圧が下がりやすくなる方がいます。透析中の食事の可否や時間は、患者さんの状態と施設方針で異なります。低血圧が起きる方は、食事を取った時刻と症状の関係を記録して相談してください。
暑い室温や体温上昇で血管が広がることもあります。また、透析中や終了後に急に起き上がると、ふらつきが強くなる場合があります。患者さん全員に同じ対策が適するわけではないため、症状が起きる場面を共有します。
薬・感染・出血・貧血などが関係することもあります
降圧薬、狭心症や不整脈の薬、前立腺の薬、睡眠薬などが、透析中の血圧や眠気・ふらつきに影響する場合があります。ただし、透析日の薬を自己判断で休むことが低血圧予防になるとは限りません。薬の名前、服用時刻、症状が出た時刻を医師・薬剤師へ伝えます。
発熱、感染、下痢、食事量低下、消化管出血、貧血などでも血圧が下がりやすくなります。黒い便、発熱、息切れ、食欲低下など、血圧以外の変化が原因を見つける手がかりになります。透析前から体調が悪い日は、透析開始前にスタッフへ伝えてください。
透析室ではどのように対応する?
まず症状・血圧・脈拍を確認します
スタッフは、症状が始まった時刻、血圧、脈拍、意識状態、胸痛・息苦しさの有無などを確認します。血圧は一回の測定だけでなく、対応後の変化も追います。
症状をうまく説明できなくても、「気持ち悪い」だけで構いません。「急にあくびが出た」「冷汗が出た」「足がつりそう」「胸が重い」のように、最初に気づいた変化を伝えてください。
体位と除水を状態に応じて調整します
状態に応じて安全な体位を取り、除水速度を下げる、一時的に除水を止めるなどの対応を行います。必要に応じて補液なども検討します。強い息苦しさがある方へ一律に同じ体位を取らせるわけではなく、症状と心肺の状態に合わせて判断します。
針が入っている間は、患者さんが自分でベッドや透析装置を操作したり、急に足を大きく動かしたりせず、スタッフの指示を待ってください。
改善と帰宅の安全を確認します
血圧が戻ったかだけでなく、吐き気や胸部症状が治まったか、再び下がらないか、起き上がりや歩行が安全かを確認します。症状が残る場合は、単独で帰宅したり運転したりせず、スタッフへ伝えてください。
胸痛、強い呼吸困難、意識障害、麻痺、けいれん、重い不整脈などがあれば、単なる除水による低血圧と決めつけず、検査や救急対応を検討します。
繰り返す低血圧を減らすための確認点
症状が出た時間と経過を記録する
透析開始から何時間後に起きたか、食事の前後か、最初の症状は何か、最低血圧と脈拍、どの対応で改善したか、回復まで何分かかったかを記録します。毎回同じ時間帯に起きるかどうかも重要な情報です。
「今日も下がった」とだけ伝えるより、「開始2時間後、食事のあとに冷汗と吐き気が出た」のように共有すると、原因を整理しやすくなります。ただし、記録のためにスタッフへの連絡を遅らせないでください。
透析時間・除水・ドライウェイトをまとめて見直す
除水速度を下げるには、透析時間を調整する、透析間の体重増加を減らすなど複数の方法があります。ただし、透析時間を短くしたり、ドライウェイトを上げたりするだけでは、必要な透析や体液管理が不十分になる可能性があります。
除水量、透析時間、残腎機能、むくみ、血圧、心臓の状態、生活上の負担を合わせて、医療者と相談して調整します。
塩分・水分は施設の目標に沿って調整する
透析間の体重増加を抑えるには、水分量だけでなく、のどの渇きにつながる塩分も確認します。氷、汁物、果物などに含まれる水分も含め、実際の生活を透析スタッフや栄養指導の担当者へ伝えましょう。
低血圧があったからといって、透析後や次回透析前に水や塩分を多く取ると、次の除水量が増えることがあります。個別の指示がない限り、自己判断で増減しないでください。
薬と透析前の体調変化を確認する
お薬手帳や薬剤一覧を用意し、透析日の朝に飲んだ薬、症状が出た時刻を確認します。薬を休む、飲む時刻を変える、量を減らすといった変更は、医師・薬剤師の指示を受けて行います。
発熱、下痢、食欲低下、黒い便、体重減少、息切れ、胸痛、前回透析後からのふらつきがある場合は、透析開始前に伝えます。いつもと同じ除水計画が適さない可能性があるためです。
低血圧が心配でも自分で変更しないこと
降圧薬を自己判断で休む・追加する
透析中に血圧が下がった経験があっても、次回から降圧薬を自己判断で休まないでください。反対に、透析前の血圧が高いからと追加服用することも避けます。家庭血圧、透析中の血圧、薬の目的を確認したうえで調整します。
除水量・透析時間・ドライウェイトを自分で決める
低血圧を避けたいからと除水を少なくすれば、水分過多が残る場合があります。透析を早く終えると、必要な治療時間を確保できない可能性もあります。症状を伝えることと、透析条件を自己決定することは分けて考えましょう。
水分・塩分・スポーツ飲料で補おうとする
一般的な低血圧対策として水分や塩分が紹介されることがありますが、透析患者さんにはそのまま当てはまりません。スポーツ飲料は水分だけでなく、糖分、カリウム、ナトリウムを含みます。低血圧や足のつりを理由に自己判断で摂取せず、施設の指示を確認します。
専門医として
本村内科医院では、日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医が、当院で透析中の患者さんについて、透析中の血圧推移、除水、透析時間、ドライウェイト、薬、心臓・貧血などを総合して評価します。
一回の血圧だけではなく、症状が出る時間、回復までの経過、透析間の体重増加、家庭血圧も確認します。必要に応じて検査や透析条件の見直しを行い、専門的な検査・治療が必要な場合は、状況に応じて対応医療機関との連携を検討します。
多職種による支援
本村内科医院では、医師、看護師、臨床工学技士が、当院で透析中の患者さんの情報を共有します。看護師は症状、意識状態、転倒リスク、透析前後の体調を確認し、臨床工学技士は血圧変化、除水量・速度、透析時間、装置情報を整理します。食事や水分・塩分については、院内の栄養指導の体制に沿って確認します。
患者さん・ご家族からは、症状が始まった時刻、食事・服薬との関係、透析前からの体調変化、改善に必要だった対応を伝えていただくと、次回以降の計画に役立ちます。
よくある質問
透析中の血圧はいくつまで下がると危険ですか?
一律の数字だけでは判断できません。透析中の収縮期血圧90mmHg未満は再評価の目安の一つですが、普段の血圧、症状、脈拍、持病を合わせて判断します。胸痛、強い息苦しさ、意識障害などがあれば、血圧の数字にかかわらず直ちにスタッフへ伝えてください。
あくびだけでもスタッフを呼んでよいですか?
急にあくびが増え、冷汗、吐き気、眠気、顔色不良などを伴う場合は血圧低下の初期サインであることがあります。「いつもと違う」と感じた段階で伝えてください。
透析中に血圧が下がったら水を飲めばよいですか?
自己判断で飲まないでください。透析患者さんでは、水分摂取が次回の体重増加や除水量の増加につながる場合があります。透析中はスタッフが症状と体液量を確認し、必要な対応を判断します。
血圧を下げる薬は透析日の朝だけ休んでもよいですか?
自己判断で休まないでください。透析前に休薬することで低血圧を減らせるかは一律ではなく、心臓や不整脈の治療目的で継続が必要な場合もあります。家庭血圧と透析中の経過を見て、医師・薬剤師へ服用時刻を確認します。
毎回血圧が下がるのは仕方がないことですか?
繰り返す場合は、除水速度、透析時間、透析間の体重増加、ドライウェイト、薬、心機能などを再評価します。起きた時間、症状、食事・服薬との関係、どの対応で改善したかを記録して透析施設へ伝えてください。
まとめ:小さな変化の段階でスタッフへ伝える
透析中に血圧が下がると、あくび、冷汗、吐き気、足のつり、めまいなどが現れ、強い場合は胸痛、息苦しさ、意識障害につながることがあります。血圧の数値だけで我慢できるかを判断せず、いつもと違う変化があれば早めにスタッフへ伝えてください。
低血圧を繰り返す場合は、除水、透析時間、透析間の体重増加、ドライウェイト、薬、心臓・貧血などをまとめて見直します。症状をうまく説明できないときは、「開始から何時間後に、最初に何を感じたか」だけでも大切な情報になります。
ご予約・お問い合わせ
本村内科医院は、福岡県大野城市・西鉄白木原駅から徒歩約3分の内科・腎臓内科・人工透析のクリニックです。当院で透析中の患者さんの血圧・体液管理を、多職種で確認しています。血液透析の導入・転院・臨時透析・旅行透析に関するご相談は、お電話でお問い合わせください。
他院で透析中の患者さんが透析中に体調不良を感じた場合は、その場で現在の透析施設のスタッフへ伝えてください。帰宅後に症状が続く場合も、まず現在通っている透析施設へ連絡し、その施設の指示に従います。意識障害、胸痛、強い息苦しさなどの緊急症状がある場合は119番を優先してください。
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この記事を執筆・監修した人
田中 茂 (たなか しげる)
日本内科学会認定医・総合内科専門医
日本腎臓学会腎臓専門医
日本透析医学会透析専門医
福岡県大野城市「本村内科医院」院長。専門的な知見に基づき、慢性腎臓病(CKD)の管理から透析治療、生活習慣病管理、予防医療まで幅広い診療を行っている。
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