透析の診療ではドライウェイトという言葉をよく使いますが、ちょっと解りにくい言葉と思います。血液透析は腎臓の働きのうち、尿素窒素などの老廃物の排出、カリウム、リンなどのイオンの調節、pH(酸度)の調節などを行っていますが、それとともに体液量の調整も重要な働きです。腎臓がしっかり働いているときは、1日500mlから2000ml以上の尿を作ることで、身体の水分量を調整しています。ところが透析を続けている方の多くは尿がほとんど出ないので、透析の際に血液の中から水分を抜き取っています。どの位の水分を抜き取ったらよいかを決める目安として透析の終了時に目標とする体重を決めており、これをドライウェイトといいます。簡単なことのように感じられるかもしれませんが、実はいろいろ難しい問題を含んでいます。
元気な腎臓は24時間フルに働いて水分を排出していますのでそれ自体が血圧に及ぼす影響はあまり考えなくてもよいですが、透析の場合は同じだけの水分を出すために11から14倍のスピードが必要となるために低血圧の危険性が高まります。身体に余っている水分が血管の中に染み出してくる速度は限られているために、あまりに急な水分の抜き取りには身体は対応できません。適切なドライウェイトを維持するためには、透析と透析の間に体重の3%~5%程度以下の体重増加(水分摂取による増加)に止めることが大事になります。
食事をとるから体重が増える、たったら食事の量をぐんと減らせばいいじゃないか、という考えに陥りがちですが、これば危ない考え方です。確かに、塩分制限やカリウム、リンの制限などダメダメといわれて食欲をなくす気持ちもわかりますが、食べることは体液量の管理の上からも大事です。食がほそって身体がやせてくると、ドライウェイトを下げる必要が出てきます。上記の制限の中でも出来ればキチンと三食食べて、適度に出来る範囲で身体を動かして、筋肉を保つことが重要です。また、体調が悪くなるとドライウェイトを下げないと血圧の上昇、呼吸状態の悪化などが起こることがあります。
逆に体調が回復してくるとドライウェイトが上昇してくることもよくみられます。透析治療をやりはじめた方はドライウェイトがどんどん上昇した経験をお持ちの方も多いと思います。合併症で入院された方が体調が回復し、退院してドライウェイトが増えることもよく経験します。
体重計に乗っただけではわからない数字で、ある程度想定した数字になりますが、血圧管理(脳血管や虚血性心疾患の予防)、心臓の負担の軽減、肺水腫予防などに大変重要な役目をはたしています。