当院の透析以外の外来で診療をしている慢性腎臓病の患者さんの多くは自覚症状がなく、健康診断で検査値の異常、尿検査異常を指摘された方、あるいは他の病気で他の病院に掛かっていて腎機能の低下を指摘されご紹介いただいた方々です。慢性の腎臓病は数年から10年以上の期間にゆっくりと変化することが多く、また完全に治ることはおろか、進行を止めることさえも困難な病気です。わたしたちの当面の目標は病気の進行を少しでも遅らせること、できれば寿命を終えるまで自前の腎臓で自分の身体を支えることを目標としています。
治らない病気だからほったらかしておいて、悪くなったら透析や移植をしようという考え方もあるかもしれませんが、それは大変損なことだと思います。透析医療などの腎代替療法自体はそれなりの進歩を遂げて腎不全そのものによる死亡はなくなり、考え方次第では前向きの生活を支えることが出来ますが、病気を治す治療ではありません。透析では心臓や運動器に負担をかけながら、食事や飲水の制限、多数の服薬、自由な時間移動の制限があり、移植では免疫抑制薬の継続投与は必須で、感染症への備えが必要です。
多くの場合、外来にみえる患者さんには、「限りある資源(残された腎臓の機能)を大切にして自分腎機能の現在地を確かめながら制限の少ない生活を継続する、腎臓治療の分野でもSDGs的な考え方をする方がトータルで考えると得だ」という気持ちで治療をしています。
病気の進み方を遅らせるという意味では、アンギオテンシン受容体拮抗薬、SGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体阻害薬など効果を認められた有望な薬剤が使われはじめており希望もみえはじめています。腎機能の低下を指摘された方は症状がないうちに受診して頂くことをお勧めします。